かつてガブリエル・アロンに請われ幾度も作戦に参加した経歴を持つサラ・バンクロフトは、CIAのテロ対策センターに身を置く一方でロンドンの老舗画廊＜イシャーウッド・ファイン・アーツ＞の経営に加わりキュレーターとしての腕を振るっていたが、世界中にまん延した新型コロナウイルスのパンデミックの影響を被り商売は行き詰まっていた。
そんな中、買い手のつかない大量の絵画の整理をしていると、作者不詳のリュートを弾く女性を題材にした絵を見つけ、バロック期に活躍したオラツィオ・ジェンティレスキ一派の作と睨んだサラは買い手を探し、ロシアの新興財閥の資産家だったが、金と権力の亡者である現ロシア大統領に目を付けられ資産と命を狙われたことからロンドンに逃亡。紆余曲折の後、投資家として数々の有力メディアのオーナーとなり、ロシアの独立系報道機関を通じてロシアへの反撃を企てているヴィクトル・オルロフとの商談がまとまったため、頭金を受け取るために彼の自宅を訪れたところ、神経剤で殺されているオルロフの遺体と対面することになる…。
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＜美術修復師ガブリエル・アロン シリーズ＞の第21作です。
正直「また才覚溢れる女性を潜入させる系かよ」感は否めないですし、ケラーが出てくる割りにはサラのボディーガード役に留まり見せ場が無いのは物足りませんが、美術修復師要素はあるし、ドナルド・トランプ大統領がもたらしたアメリカ国内の断絶・民主主義の危機とかコロナ過、極右系陰謀論集団Qアノンの台頭といった現代の世相を背景にしたコンゲーム小説としてはさすがの手並みで、一気に読ませるリーダビリティの高い一作に仕上がっています。
一方で、このシリーズの世界線のイスラエルはロシアを不倶戴天の敵認定していますが、'22年に発生したウクライナ戦争において、イスラエルがロシアに対して腰が引けた対応をする一方、ロシアもイスラエル外相の失言をプーチンが謝罪したりと、互いに気を使いあっている関係性が露呈したせいで、一気にファンタジー化しちゃったのは、かなりジャーナリスティックな視点で物語を構築する作者にとっても計算外だったでしょうね。
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