レニングラードで港湾労働者の監督官の父コンスタンチンと料理人の母エレーナの間に生まれたアレクサンドル・カルペンコは、貧しいながらも学業に秀で、両親からも将来を嘱望されていたが、労働組合を設立しようと画策していたコンスタンチンが、アレクサンドルの親友でKGB入りを熱望しているウラジーミルの密告が引き金となってKGBの手引きによって殺害されてしまったうえ、アレクサンドル自身も大学進学の道を閉ざされ港湾労働の仕事を強いられるたことから、母のエリーナは、そんな息子の運命を切り開こうと、荷役部門の責任者を務め、KGBを忌み嫌っている弟のコーリャの進言と手引きによりソ連から脱出することを決意する。
港の保安部隊の将校達もこぞって観戦に行くため警備が手薄になるソヴィエト・カップの決勝日に出航する2隻の貨物船のうち、どちらに乗るかをアレクサンドルはコイントスで決めることにする。表が出たらアメリカ、裏が出たらイギリス、と…。
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『嘘ばっかり』で冒頭3章をティザー公開するというプロモーション手法もジェフリー・アーチャーらしいし、もはやアーチャーくらいしか書いてないんじゃ？ と言うくらい昨今すっかり見なくなった古式ゆかしい立身出世伝です。
ソ連からの亡命を目論む主人公と母親が乗る船をコインで選ぶ冒頭から物語はサーシャ（イギリス）ルートとアレックス（アメリカ）ルートに分岐して、時に幸運な出会いに助けられ、時に手痛い裏切りを糧に成功していく王道展開はアーチャーの面目躍如と言ったところで、良くも悪くも「よく出来たお話し」のお手本のような展開でリーダビリティの高さは相変わらずです。
そして、『十二枚のだまし絵』収録の「焼き加減はお好みで…」でマルチエンディングの実績があったので、てっきり2ルートのままマルチエンディングを迎えるのかと思いきや、サーシャとアレックスの運命を、今風に言うとマルチバース的に交錯させつつ、歴史には弾力性があって改変は不可能ロジックでビターな結末へと収斂していくSF的ギミックも面白かったです。
ラスト1行で明かされるアレクサンドル／サーシャの仇敵の正体も、勘が良い読者なら早い段階で気づけたのでしょうけど、自分は全く紐付けられなかったのでやられた感が強かったです。
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