ナノマテリアル研究の第一人者である汪森（ワン・ミャオ）の元に突如私服警官の史強（シー・チャン）が陸軍士官2名を伴って訪れ、半ば強要する形でとある会議への出席を要請する。
汪が不承不承ながら同行すると、会議の場には驚くべきことにアメリカ空軍とイギリス陸軍の大佐、NATO軍の連絡将校に加えCIAの担当官まで同席していた。
会議を取り仕切っている中国陸軍少将の常偉思（チャン・ウェイスー）によると、この2ヶ月の間に各国の高名な理論物理学者が立て続けに自殺しており、彼・彼女らの自殺の理由は共通しており、その理由とはこの世に物理学は存在しないことに絶望したことからだと言う。
自殺者の中に、高エネルギー粒子加速器プロジェクトで姿を見かけ、その美しさに心動かされた楊冬（ヤン・ドン）の名前があったことに動揺する汪に対して常は、自殺者のほとんどが物理学の世界で設立された国際的学術組織＜科学フロンティア＞と関わりがあったことから、＜科学フロンティア＞から勧誘を受けている汪に誘いを受けて＜科学フロンティア＞の内情を探って欲しいと依頼する…。
* * * * *
発表されるやいなやSF界が湧きに湧き、2015年にアジア人初＝翻訳小説としては初となるヒューゴー賞長篇部門を受賞。2019年に日本語版の単行本が発表されると日本でも大ヒット。そのヒットをきっかけに日本でも中国SFブームを巻き起こした話題の超弩級中国SFです。
物理学者達の自殺の理由である「物理学は存在しない」とはどういうことなのか？ と言うミステリアかつ壮大なフックに釣られたらもうお終い。潜入に同意したとたん汪に現れる謎のカウントダウンの不気味さ、＜科学フロンティア＞メンバーがプレイしているVRゲーム『三体』の独創的かつ摩訶不思議な世界観、そして明かされる三体世界の遥かに進んだ科学力のスケールの大きさのワンダー等々、作者の想像力の果てしなさを目の当たりにして圧倒・翻弄されているうちに、あれよあれよと言う間にページをめくらされてしまう面白さ。
セーガンの『コンタクト』やクラークの『幼年期の終わり』などのファーストコンタクトもののワクワク感に、ホーガンの『星を継ぐもの』やニーヴンの『リングワールド』のような大風呂敷のトンデモさに「んなアホな」と突っ込みつつ発想の豊かさに痺れる感覚を一遍に味わえ、そんな中にもホーガンの＜巨人たちの星シリーズ＞にも通じる人類賛歌も込められているという、久々SFを読む興奮・醍醐味・カタルシスを満喫出来る超弩級SFです。
親切にもページ初出にはフリガナがあるとは言え、馴染みのない中国人登場人物の名前が（年のせいもあってか）なかなか覚えられのだけがネックですが、強大な三体世界を相手に人類がどう戦うのか？ 今後が実に楽しみです。
|
