人類は人口増加と環境汚染により疲弊した地球を捨て宇宙へと領土を拡大していくこと200年以上の間、開拓先で潤沢な資源を得ていたことから互いに争う必要が無かったため航宙軍の存在は有名無実化していた。
そんな中でも深宇宙の哨戒を受け持ち、1年以上の長い航海に就くことも多いことから＜暗黒の艦隊（ブラック・フリート）＞というニックネームを奉られた第7艦隊を率いるジャクソン・ウルフ艦長の元に、艦隊司令官のアリソン・ウィンタース大将の命により新たな副長としてセレスタ・ライト中佐が配属される。
飲酒の問題を抱えているウルフは、地球出身である彼のことを疎むウィンタースによるウルフ追い落とし策ではないかと余計なプレッシャーに晒されることになったうえ、艦隊作戦委員会議長補佐のアストン・リンチという男が現れ、予定を繰り上げて出航するよう求めてきた。
全く道理の通らない指令に怒りと困惑と覚えつつも、ウルフは司令部の命に従って出航準備を整え、惑星タウ・セティへと駆逐艦＜ブルー・ジャケット＞を向かわせる…。
* * * * *
日本では、《小説家になろう》や《カクヨム》などの小説投稿サイト発の異世界転生ものが花盛りですが、アメリカではブログや自費電子出版発のミリタリィSFが隆盛なのか、またもや新たな宇宙海軍士官ものの新シリーズの登場です。
冒頭でサラリと設定が説明されているだけなので、ウルフの地球生まれという出自がこれほどまでに忌み嫌われる設定が空回りしている感があったり、この世界観においてジャクソンのみが未知のエイリアンとの戦闘に対してこれほど柔軟な対応力があるのかについて納得の行く説明が不足していたり、「ほかの艦隊から規律の問題やほかの点で好ましくない士官や下士官を契約満了時までほうりこんでおくゴミためと化している」と説明はされるものの、艦内規律の緩み・乱れを感じさせる日常描写の積み重ねが不足してるため、地球出身のジャクソンを忌み嫌う下士官による反乱が唐突に感じてしまう等々、結構クリティカルなストーリィテリング上のツッコミどころはあるものの、コミュニケイションが全く通じない、問答無用の殲滅戦を仕掛けてくる未知のエイリアン艦隊──しかもダメージ再生能力を持つ有機体という恐るべき力を持つ──相手に、決死の抵抗を試みるウルフ麾下の＜ブルー・ジャケット＞の熱い奮闘ぶりはリーダビリティが高くサクサク読めるミリタリィSFの佳作となっています。
|
