ロンドン市内で3組のISISのテロリストが人で賑わう劇場を襲撃、銃撃と自爆により2千名を越える一般市民が殺される無差別テロ事件が発生する。
サラディンと呼ばれるISISの指導者が放ったテロ実行犯の一人で、イギリスに武器を持ち込む手配をしたメンバーが残した手がかりから、フランスで活動する“スコルピオン”と呼ばれるISIS工作員との繋がりがあることをMI5から伝えられたMI6長官グレアム・シーモアは、ひょんな巡り合わせからMI6のスパイとしてリクルートした元暗殺者のクリストファー・ケラーを、フランス語に堪能で裏社会に通じていることからフランスに送り込むことにする。
ケラーは庇護者のドン・オルサーティの犯罪組織ルートを通じてスコルピオンの身元と、商談のためニースでヤニック・メナールという武器商人と落ち合う予定であること、メナールはオルサーティの組織によって始末され、武器はオルサーティの管理下にあるという情報を得てニースに飛び、メナールに成りすましてスコルピオンことヌーレディン・ザカリアと取り引きを進めようとするが、ザカリアに身元を疑われたことから彼を殺さざるを得なくなってしまう。
サラディンを辿る細い糸が切れてしまったことからシーモアは、フランス側に公式に協力を依頼するための切り札として、イスラエルの諜報機関＜オフィス＞の長官に就任したばかりのガブリエル・アロンに白羽の矢を立てる…。
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＜美術修復師ガブリエル・アロン シリーズ＞の第17作目です。
前作の『ブラック・ウィドウ』で登場したISISの指導者で希代のテロリストであるサラディンとの第2ラウンドが繰り広げられます。
ISISの戦闘員供給源として、また活動資金となっている麻薬密売ルートの要衝として、モロッコがISISのテロ活動の重要な役割を担っている現状をジャーナリスティックな視線でつまびらかにしつつ、アロンが中心となってイスラエル・イギリス・フランス・アメリカの諜報機関が合同で麻薬密売ルートからサラディンに迫っていくストーリィはさすがの筆捌きで、リーダビリティが高いポリティカルスリラーに仕上がっています。
一方で、囮作戦としての緊迫感は『ブラック・ウィドウ』に譲るし、肝心の仇敵サラディンとの対決の決着も、サラディン側の描写がほとんど無いことに加え、拍子抜けするほどのあっけなさなので、カタルシスの面では正直少々物足りなさが残ります。
また、アロンのモサド長官という立場や今回のプロット上入り込む余地が無いとは言え、美術修復師要素が無いのも、このシリーズの特徴が失われてしまったようで残念です。
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