末端の密売人から、北新宿でヤミ民泊として運営されているマンションの一室が麻薬の仕分けと取り引きの場として使われているという密告を受けた鮫島は、取り引き現場とされる302号室を監視するために向かいのマンションの1室を借り、鑑識の藪の協力を得て監視カメラをセッティングして張り込みの準備を整える。
そんな折、殉職した桃井の代わりの課長が本庁からやってくるという話が新宿署の署長からもたらされる。その新課長の阿坂景子は、着任前にわざわざ鮫島との会談の場を設け、「基本を守る、ルールは曲げない」という自分のポリシィを貫くつもりであることを告げ、警察における鮫島の微妙な立場を知ってか知らずか、鮫島が単独捜査を行っていることに難色を示す。
鮫島がいかに桃井の庇護下にあったのかを思い知らされながらもマンションの監視を再開した鮫島と藪は、ひとつ上の階の402号室の床に人が倒れているのを発見する。監視カメラの録画を確認すると、銃撃が行われたと思しき様子が映っていたため402号室を訪れると玄関の鍵は開いており、中に入ってみると男性の射殺体が残されていた…。
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なんと、前作の『絆回廊』以来8年ぶりとなる新宿鮫の新作です。
鮫島の良き理解者であった上司桃井の殉職、晶との恋人関係の解消は、当然鮫島の心理状態に暗い影を落とすことになります。その上で、桃井の後任の課長阿坂との職務に対する信念・スタンスの違いからくるせめぎ合い、シリーズで初となるパートナー矢崎の登場など、単独行動を許さない状況を持ち込んでいる点が新味として効いています。
一方で、香田属する内閣情報調査室の下部機関の工作がこじれ、そこに鮫島の宿敵となった中国人残留孤児二世を核とする犯罪組織＜金石＞の関係者・思惑が複雑に絡み合ったことで、少々事件の背景事情がまわりくどいし、登場人物の相関図も込み入りすぎなため、絵解きのための捜査・推理の過程がくどく感じてしまいました。その分、桃井や晶の喪失による孤独さといった内面描写が、序盤こそ描かれるもののなおざりになってしまっていたり、犯罪組織の男すら手玉に取る新本ほのかの悪女っぷりの竜頭蛇尾感ももったいないし、そう言えば最初のタレコミの件はどうなったんだ？ とか、阿坂との摩擦、矢崎の処遇など、振るだけ振っておいて投げっぱなしジャーマンで畳まれてしまったりと、残念ポイントが目立つのが惜しいです。
そうは言ってもシリーズの肝である、大沢流ハードボイルド小説・警察小説としての水準は保っていますし、不本意ながらも共闘することになった鮫島と香田といった胸熱展開も楽しめるので、シリーズを追い続けている方なら読んで損は無いと思います。
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