長年駆逐艦乗りとしてのキャリアを積み上げてきたものの昇進を見送られていたアメリカ海軍中佐ジョージ・クラウスだったが、ようやくマハン級駆逐艦＜キーリング＞の艦長として、イギリスに物資を届ける輸送船団の護衛艦隊指揮官の任に就くことになった。
船団に参加している37隻2,000名弱の乗員と、護衛艦4隻800名の乗組員の命と貴重な物資を預かったクラウスの前には、ドイツ潜水艦隊司令官カール・デーニッツが大西洋上に放ったUボートが待ち構えており、性能も乗員の練度もバラバラな船団から落伍船を出さないよう目を配りつつ、レーダーだけを頼りにUボートの攻撃から船団を守ることに全神経を注ぐことが求められていたが、Uボートはそんなクラウスの心労を他所に容赦なく接近して攻撃を仕掛けてくる…。
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長らく絶版になっていたものの、トム・ハンクス脚本・主演で映画化（本稿執筆時点で日本公開日未定）されたのをきっかけに新訳版として再販された、＜ホーンブロワー シリーズ＞で名高いC.S.フォレスターの、第二次世界大戦の大西洋を舞台にした海洋冒険小説です。
輸送船団をUボートの脅威から護る護衛艦隊指揮官としての初陣に挑むクラウス艦長の48時間に及ぶ奮闘ぶりを描いているのですが、視点は艦橋からいっさい離れることなくクラウスに付きっきりで、Uボート側はおろか艦内の別部署の様子すらオミットされ、会話のほとんどは命令授受のやり取りで構成されているので、海洋冒険小説に期待してしまう駆逐艦とUボート艦長間の頭脳戦のスリリングさや、艦内・敵味双方の乗組員達の群像劇としてのエモさは残念ながらありません。
一方で、愛する妻に去られ、上層部から“適格なるも保留”と評されなかなか昇進出来なかった船乗りの鬱屈した内面や、命令を下すにいたる思考プロセスを丹念に描くことで、ひたすらストイックに任務を遂行せんとするクラウスの指揮艦としての矜持が炙り出されいき、それがハードボイルド小説的味わいをも感じさせる、濃密な読書体験が得られる小説だと思います。
そして、読むと濃くて熱いコーヒーが飲みたくなること請け合いです（笑）。
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