 |
2014年8月に読んだ本のレビューです。
|
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ［新訳版］
TINKER, TAILOR, SOLDIER, SPY
ジョン・ル・カレ：著
村上博基：訳
早川書房：刊
|
英国情報部＜サーカス＞の情報部員リッキー・ターが、香港を訪れていたソ連の通商代表団メンバーの一員であるボリスの妻イリーナを転向させようと画策し、代表団の帰国が目前に迫ったのを機にロンドン本部に亡命者の受け容れ要請をした途端彼女との連絡が途絶え、拉致同然に飛行機に乗せられ香港を離れたことが判明する。そしてイリーナがターに残した日記には、＜サーカス＞の上級職員の中に“ジェラルド”という暗号名で運用されているスパイが潜り込んでいることが暴露されていたことから、“首狩り人”（スカルプハンター）と呼ばれる汚れ仕事を受け持つ部署のチーフであるピーター・ギラムは、かつてジム・プリドーという情報部員の正体が露見し重傷を負った件を機に、＜サーカス＞内に二重スパイが潜んでいる可能性を看破し調査を上申したものの、組織に破滅的な結果をもたらしかねないことを怖れた上層部の判断により、組織刷新の名のもとお払い箱となったジョージ・スマイリーを密かに呼び戻し、“もぐら”の炙り出しを依頼する。
うかつに動けば“ジェラルド”に察知されてしまう恐れがある中、スマイリーはギラムの協力を得て膨大な内部資料を入手して精査する作業を進める一方、現在は＜サーカス＞を離れた元同僚達への聞き取り調査を開始する…。
* * * * *
随分前に『寒い国から帰ってきたスパイ』を読んだものの肌に合わず、以降は積極的に手を出すことなく過ごしてきたものの、エスピオナージュ好きを自認していながらこれだけの有名作を読まずにいるのも片手落ちと思い着手してはみたものの、やはりストーリィらしいストーリィは無く、プロットの秀逸さに唸るとか、波瀾万丈なストーリィにハラハラドキドキしたり、謎解きのカタルシスを得たりするタイプの小説ではなく、むしろ純文学的に文章そのものの稠密さを味わうル・カレの芸風というかスタイルはやはり自分に合わないと再認識するのに留まりました。
そのため星的は低くくしていまいましたが、これは小説の出来不出来とは無関係であり、あくまでも嗜好の問題なのでお間違えなきよう。
ところで序文によると、“ハニートラップ”ってル・カレの造語なんですね。これは知りませんでした。Wikipediaに記載されても良いレヴェルのトリヴィアだと思うんですが、なんで載って無いんですかね？
|
|
梅安冬時雨 仕掛人・藤枝梅安(7)
池波正太郎：著
講談社：刊
|
梅安によって斃された白子屋菊右衛門の跡目を継いで京の裏社会を取り仕切る切畑の駒吉は、白子屋の仇を取るため梅安を、さらに関東進出への足がかりを掴むために音羽の半右衛門を亡き者にするため、梅安暗殺を小杉十五郎に阻まれたばかりか傷まで負わされたことから意趣返しの機会を狙っていた浪人三浦十蔵を江戸へ送り込むが、当の梅安は三浦十蔵が自分のことを見過ごすはずが無いと、以前怪我の治療をした薬種屋の片山清助の脚の具合が悪くなったこともあり、半右衛門依頼の仕掛けを片付けると清助夫婦を伴い湯治のため熱海に姿を隠していたことから、三浦はやむなく梅安が姿を現すのを待つことにする。
そんな中、切畑の駒吉は三浦十蔵を放つ一方で、白子屋時代から仕事を請け負っており、白子屋襲撃の際の巻き添えで弟を梅安に殺されたと思い込んでいる浪人平尾洋之助にも梅安殺害を依頼する。
駒吉の依頼を受けた平尾洋之助は江戸に向かい、かつて白子屋配下の船宿笹屋伊八に潜入し、白子屋襲撃の手引きをした女中のおしまに当たりを付け、梅安の居場所を探り出すための助勢を求めることにするが…。
* * * * *
作者が急性白血病を患い急逝してしまったため絶筆となってしまった＜仕掛人梅安シリーズ＞の最終作をバスタイム読書で読了。
絶筆なので当然ながら単品としてもシリーズとしても物語の良し悪しは評価しようがありませんが、仕掛人稼業への倦みが見え始め、家を建てたりおもんに財産分与したりと、死亡フラグともとれる梅安の心境の変化や行動の数々が醸し出す哀愁というか悲哀や、半右衛門配下でありながら、任務で敵である伊八と身体を交えるうちに情が芽生えてしまい、半右衛門殺害の任を負った平尾洋之助に協力してしまうおしまの女の性がこれまでにない味わいを加えており、ストーリィが宙ぶらりんのまま終わってしまっていることを差し引いても読み応えがあった点を評価して星は4つとしました。
なんとなく破滅エンドの匂いを漂わせてはいますが、つくづく梅安の運命を見届けられないのが残念でならないシリーズでした。
|
|
Last Modified 2014/11/9
|  |
